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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『隣の八重ちゃん』

映画・ドラマ

『隣の八重ちゃん』 逢初夢子 ほか

帝大生の青年と、隣に住む女学生。幼なじみの二人はまるで兄妹のような関係にあるのだが、女学生の方は密かに帝大生に思いを寄せるようになっている。そこに女学生の姉が嫁ぎ先から出戻ってきた。一人寂しい姉は、イケメン高学歴の帝大生に目を付ける。妹は帝大生に好きとも言えず、気が気でない――。

私たちの国は数十年前、アレによってどえらいことになった。私たちはアレ以前の日本のことをあまり知らないが、アレのどす黒い影によって、アレ以前の歴史までも暗くて後ろめたい時代だったような気がしてくる。私たちのご先祖様はいつも貧しくてひどい扱いを受けて、死と隣り合わせで幸福とは縁がなかったのだと勝手に想像してしまう。一言でいえば、アレ以前の日本人と、アレ以降の私たち日本人が、まったく別種の生き物のように感じられてしまうのだ。彼らはのっぺらぼうのようで、表情がない。『少年H』とか『小さなおうち』のおかげで、アレの時代ですら人々の間に笑顔があったことを、私(たち)はようやく知ることができたくらいだ。

そんな中、この作品である。これが1934年に撮られたのかと思うと、感動する。嬉しくなる。私たち日本人は、ずっと同じ日本人として、彼らと繋がっているのだと感じられたからだ。仄かな恋心、おっぱいの話を聞いて心穏やかでない帝大生、この青春の感覚の、なんと現代的なことか。ええい、貴様それでも帝国軍人か、とか、大和魂が何とかかんとか、とか、そんなものは長い長い日本の歴史のほんの一瞬の風潮に過ぎない。私たちは、行儀悪く飯をかきこんで食うし、女の子と並んで歩くし、恋もするし、おっぱいに興奮もする。私たちはずっとそうだったんだ。もちろん、これは作り物。でも、私はとても嬉しかった。こんな素敵な映画を作れた日本がますます好きになった。島津保次郎→木下恵介山田太一、と連綿と続いている訳です、日本映画は。

隣りの八重ちゃん [DVD]

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映画史を学ぶ クリティカル・ワーズ【新装増補版】

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