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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『グラスホッパー』

グラスホッパー 生田斗真 ほか

麻薬組織の陰謀に偶然巻き込まれ婚約者を亡くした男の復讐劇、っていう触れ込みだったけれど、全くのデタラメじゃないか。というのも、この主人公、結局何にもやってないから。

婚約者を失って放心状態になっている主人公は、ある日、彼女の死に関わりのある組織の存在を知り、そこに潜入することに成功。表向きはダイエット食品の会社で、これを売りつけるためにキャッチをしていると、主人公の前に元教え子と名乗る若い女が現れ、彼女は組織に拉致されてしまう。その後、主人公の目の前で組織のナンバー2が殺される。犯人は「押し屋」と呼ばれる男で、事故に見せかけて人を殺すプロだ。追跡を命じられた主人公は、彼に家庭があることを知り、自分の代わりに復讐を果たしてくれた恩人として、彼を見逃すことにする。が、主人公の素性を知った組織は、主人公こそが「押し屋」の雇い主であると断定し、主人公は追われる身になってしまうのだった。何とか逃げ切った主人公は「押し屋」の男に危険を知らせるため、彼のもとを訪れた後、拉致された元教え子を奪還するために、もう一度組織の元へ戻る。そこで酷い拷問を受け、婚約者が死ぬ瞬間の映像を見せつけられる。彼女は偶然事件に巻き込まれたが、それは近くにいた子供を守るためのとっさの行動だったと、主人公は知ることになる。後に、助かった子供と対面した主人公は、その子を「タイムカプセル」だと言う。冷凍保存した料理には、作った人の思いも一緒に閉じこめておけるから、というエピソードとのオーバーラップですわな。ちょっと無理があるんじゃないか。

で、実は、という話。実は、これらの全ては、この組織の壊滅を目論む別の組織の計画で、主人公は彼らに利用されていたのだ。拷問の末、主人公が意識を失っている間に、元教え子を名乗っていた女が親玉を殺し、組織は壊滅、というわけ。「押し屋」も、その家族も、全てが別の組織の人間だったというのである。この「実は」を明かすラストのシークエンスは物語としては凄くダサいやり方だと思う。

それでだ、この主人公のストーリーとは全く別に、「自殺屋」と「ナイフ使い」という二人の殺し屋がいて、最終的に二人が対決する、というプロットがあるんだけれど、ここまで触れていないことからも分かるように、本筋と全く関係がない。もう、見事に何も絡んでこない。なのに、この二人のエピソードに凄く時間が掛けられていて、物語としてもこちらの方が見甲斐があったりするから困る。結局、麻薬組織壊滅のために手のひらで踊らされた末、意識を失ってぶっ倒れていただけの主人公は、何をやったんだ? という話になる。

その他の部分でも突っ込みどころが多すぎる。スマホGPSで居所を監視されている主人公が、逃げ込んだ喫茶店でちょっとスマホの電源を付けたところ、組織の人間たちが血相変えて主人公を追いかけてくる、という描写がある。にも関わらずだ。そこから逃げた後、「押し屋」の家で、主人公のスマホが鳴り始めるのだ。電源消してますから、という主人公だったが、鳴っているのは確かに主人公の携帯。見ている私は、次の瞬間ここに組織の人間が現れるんだ、と思った。「押し屋」はどうやって組織に対抗するんだ、それはそれで面白いな、と思った。ところが、組織の人間が「今どこにいるんだ?」と訳の分からないことを言い出す。こんなマヌケな組織が日本最大の闇の組織を名乗って良いのか。

マヌケと言えば、組織最大のマヌケは、主人公の素性を全く知らなかったことだろう。主人公は、自分の本名も、自宅の住所も、何も隠さずにそのまま組織に教えてしまっている。しかし、前職が教師であったことや、婚約者がいて、それが組織の起こした事件によって死んでいることについては全く把握していない。脇が甘すぎるだろう。ちょっとしたことでキレて人を殺し人に殺されているこの業界で、こんなことではいくつ命があっても足りないんじゃないのか。

ただ、「押し屋」の「家族」が、明らかに異様だったのは、「実は」を聞いて納得。だって、主人公がとっさにウソを付くために家庭教師の営業中であると言ったのを聞いて、家庭教師を付けようかと考えていたんですよー、なんて普通言わないだろ。ヨレヨレボロボロになったスーツを着て、顔に傷作ってるんだから。挙げ句、ピザを食いながらカノジョのことを思い出して泣いてるんだから。あ、これはキチ〇イですわ、となるのが普通。

波瑠はかわいいけど、受け取った婚約指輪をそのままパンケーキに放り込んで焼き上げるという前代未聞のトリックプレイを披露していて、もう何から何まで、滅茶苦茶な映画だった。