京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『マンガの描き方』

『マンガの描き方』 手塚治虫

マンガの神様・手塚治虫によるマンガの描き方教本。プロ志望者を対象とせず、ちょっとマンガを描いてみたいなぁという一般人向けの教養書のつもりで書いたらしいのだが、書いているうちに興に乗ったのか、結構深い内容に触れている。

まずは絵の描き方。マンガは落書きからスタートするもので、軽い気持ちでどんどん描けと。子供の落書きには、省略・誇張・変形の三要素があって、それがまさにマンガの本質なのだ。ただし、そこには批評精神(からかい・要求)が必要なんだ、というようなことを言っている。

それから、マンガを描くには、見てそれを写すのではなく、心に浮かんだものを絵に落とし込む能力が必要で、そのために心のスケッチ(見て覚える)訓練が是非とも必要であると。

あとは、具体的なマンガ絵のテクニックとか、マンガを描くのに必要な道具だとか環境の話。仕方ないこととはいえ、絵のタッチが少し古いので、理論として勉強しておくに越したことはないだろうが、直接役に立つのかは、私は描かないから分からない。道具についても、随分ページを割いているけれども、パソコン全盛の現在、どれだけ役に立つかは不明。

「個性というものは自分では絶対に分からない」という金言に触れて少し嬉しかった以外は、正直、あんまり面白くないなぁ、と思いながら読んでいたのだが、マンガの内容をどう作るのか、という話に及び、徐々に引き込まれていった。勢いに任せて書いている感じで、整理も網羅もされているとは言いがたいが、超人的な仕事がどう生まれたか、その秘密の一端が明かされていて、ベタながら面白い。

一言で言えば、作家にとって核となる出来事(嬉しいこと辛いこと)から、物語は生まれる、それがテーマだ、ということだ。オリバー・ストーンベトナム戦争の映画を撮り続けているのと同じで、つまりは執念みたいなものなんだろう。怒りにせよ悲しみにせよ、汲み尽くせないエネルギーが人を創作に向かわせる。果たして、私にそんなテーマがあるだろうか。

イデアはふとした時に浮かんできて、一瞬で消えて二度と思い出せないから、どんなにつまらないことでもメモをしておけ、というのは藤子・F・不二雄先生とも共通。情熱でもって、とにかく書きまくった、というのも同じだ。食うために描くのではなく、描くことがすなわち生きること、というのでなければ作家にはなれないのだろう。

箇条書きっぽくなったが、そんなところか。夏目房之介が解説を書いているが、簡にして要を得た手塚評で、これも実に面白かった。マンガに取り憑かれ、マンガ界に陰と陽をもたらした手塚。新鋭に追い抜かれ、悔しさを噛みしめて死んでいったというのが、少し気の毒にも思えた。作家というのは、そういう宿命にあるんだろうか。それともそうあって初めて作家と呼ばれるにふさわしいのか。

マンガの描き方―似顔絵から長編まで (知恵の森文庫)

マンガの描き方―似顔絵から長編まで (知恵の森文庫)