読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『高校生のための実践劇作入門』

脚本術・映画学・物語論

『高校生のための実践劇作入門』 北村想

速筆多作で知られるという(存じ上げませんが)プロの劇作家による戯曲の書き方入門書。とある劇作家志望の高校生に向けた月一の手紙という体裁を取って書かれている。全12回、季節の挨拶とその蘊蓄から始まる、少々鼻につく創作入門だが、実践的なのは確か。めっちゃくちゃ薄い本なので、内容をザッとまとめてみようか。前書きとして、筆者はまず演劇の本質から語り始める。曰く、演劇とは、戯曲(文学表現)と舞台表現、を合わせた全体である。では、各月の内容を――。

四月
才能(あるかどうか分からない)と努力(誰でもしている)は当てにせず、チャンスを見逃さないこと。そのためにはひたすら「書く」こと。戯曲を書くためには、劇場(舞台)を想像・想定すること。

五月
ペンネームを考える。下手すりゃ死んでからも残るものだから慎重に。

六月
まずタイトルを決めてしまう。思いつく限りタイトルを書き出す。タイトルはインスピレーションの原点。

七月
どんなにつまらない経験でも、必ず役に立つから大切にする。創作はテーマから出発する必要はない。にもかかわらず、出来上がったものには自ずとテーマっぽい物が感じられる。

八月
「創造力よりも観察力(岸田国士)」。人物と場面があれば、戯曲は書き出せる。ストーリーは必要ない。プロットとはストーリーの効果的な見せ方のこと。

九月
戯曲はモチーフから始まる。モチーフとは「創作意欲をそそった素材」のこと。モチーフは突然、作家の脳に現れる。いつも何かにアンテナを張っておくこと。

十月
メモの重要性。作者の体験を踏まえた虚構は不思議と重みが生まれる。戯曲は文学的な書き方をしても全く構わないテーマ・モチーフ・ストーリーが同じものであるのは、素人の作品にありがちな欠陥である。(「同じ」というのは例えば――助け合いがテーマで、震災がモチーフで、ボランティアをするストーリー――というもの)

十一月
セリフはモノローグ(独白)とダイアログ(会話)の二つ。いずれも観客にも向けられていることに注意する。

十二月
台詞を上手く書くための練習法は二つ。好きな作家のマネをする(パクりでない限りオリジナリティは出る)、別の言い方を考えてみる(より自然に、より効果的になるように)

一月
戯曲の構造について。「何を中心に何がどうなるのか(位相)」、「登場の順番、セリフの順番(順序)」、「登場人物の関係(代数)」

二月
箱書きという方法。

三月
自分の書いた言葉が、自分の思い通りに演じられることはないだろうが、演劇とはそういうもんだ、という話。

中でも十月は重要。戯曲とシナリオの決定的違いはト書きにおける文学的表現の有無だろう。思うに、戯曲では文学的表現の許容される範囲がシナリオより広い、というだけで、今後、戯曲を書くにしてもシナリオに合わせておく方が色々融通が利くと思う。あと、「テーマ・モチーフ・ストーリーが同じものであるのは、素人の作品にありがちな欠陥である」という指摘は超が付く重要事項であろう。思わず膝を打った。

あとは付録として載せられたQ&Aが面白い。いろんな意味でキモい奴(お前が言うな)ばかり質問をよこしていて、それに筆者が丁寧に回答しているのが笑える。中には私と同じような奴がいて、

Q3 映画や本を好きでたくさん読み過ぎたせいだろうか、何を書いても面白いと思えない。ストーリーはたくさん思いつくのだが(引用者注:これは私とは違う)、どれも「あっ、もう読んだ」「あっ、知ってる」と思ってしまう。日大芸術学部演劇科 T・S助

Q6 書けない。日常を越える虚構ってめったにないな、としみじみ思ってしまう。わざわざ劇場に行くにたる作品とは、と思うとついうちテーマを重視したものになったり……。しかし、テーマの匂いの強いものは書きたくないのだ。神奈川県主婦 地域劇団で演出助手の経験数年のT・H子さん。好きな作家ガルシア・マルケス

Q3に対しては、「忘れろ。見たことのあるような話を書け」。Q6に対しては「あなたの場合、日常が退屈に過ぎるのではありませんか」と痛烈なツッコミを入れている。他にも色々と質問と回答が行われているが、このQ&Aがまさに圧巻というべきで、夜中に大笑いした。

以上、良書。

高校生のための実践劇作入門―劇作家からの十二の手紙

高校生のための実践劇作入門―劇作家からの十二の手紙