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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『冬構え』

映画・ドラマ

『冬構え』 笠智衆 ほか

スゲえ話、というかこういうドラマを作って茶の間に流していた時代があったのか、という気持ちになる。

笠智衆が新幹線に乗って東北を目指している、というところから物語が始まる。が、ここからしばらく、何の話なのかさっぱり分からん。

一番良い宿に連れてけといってタクシーの運ちゃんに紹介してもらった宿に泊まる。別館みたいなところにある、やかましい宴会場の近くの部屋に通されて、そこでおとなしく飯を食っている。せわしなくやっつけ仕事をこなす仲居の岸本加世子にチップをはずんでやる。

岸本加世子は調理場の若い板前と恋仲で、いずれ二人で独立したいと思っている。金なら腐るほどあるという笠智衆の言葉を真に受けて、これだけチップをくれるんだから、お金も融通してもらえるだろうと考える。男と一緒に笠智衆の元を訪れたところ、これをやろうといわれて、金かと期待するが、新幹線で飲まずじまいにした缶ビールだった。馬鹿にしてやがる、と男がキレる。

笠智衆は夜にキャバレーで遊んで酔いつぶれ、岸本加世子が介抱してやる。岸本が部屋の金庫をこっそり開けてみると、確かに金がたんまり入っている。なんとかこれを貰えるように頼もうと思う。

翌朝、笠智衆は宿を立つという。岸本加世子が引き留めるが、あっさりと出て行く。笠智衆中尊寺金色堂を観光していて、途中で見かけた婆さんに話しかけ、今までこんなことはなかったと、旅の出会いを堪能する。婆さんも独り身で一人旅をしているという。同じ宿に泊まるが、実は婆さんには旦那がいるという。セックスはなしで、という申し出に、そりゃそうだと応じる。

おいおい、何だよこの話と思いつつ、もしかしたら笠智衆は自殺でも考えてるのかな、とは思った。でもさ、笠智衆自体がもう半分死にそうだし、夜伽がどうのこうのといったニュアンスも出すし、まさかな、と思っていた。明示されるのはもう少し後だが、しかし、笠智衆はやはり自殺を考えていたのである。

その頃、岸本加世子は恋人と一緒に宿を飛び出し、笠智衆を探していた。岸本加世子はとにかくきっかけになる金が欲しいと考えている。一方の男は終始不機嫌(コイツ、初出からずっと無愛想で、一体何で岸本加世子は付き合ってるんだろうと思う)。それがあるとき爆発する。爺さんの金がなきゃ独立できないのか、俺がそんなに信頼できないか、と。信頼できねえよ、と私は思うが、岸本加世子は反省する。で、笠智衆探しをやめようとするが、そうすると逆に笠智衆が見つかるのだ。それで同じ宿に泊まって話をする。岸本加世子は彼氏の手前もう金の話はしない。

次の日、別れ際に笠智衆は紙包みを渡して、連絡先も告げずに去って行く。包みの中には札束が入っている。女は少し舞い上がるが、男はジジイの自殺を直感する。

続いて旧友を訪ねた笠智衆。その旧友は病気で入院中。妻も重い認知症で同じ病棟にいるのだという。自分の病気はがんだが、年寄りのがんは進行が遅く死ねない。緩和ケアと延命治療ばかりで、家族が内心やっかいだと思っているにもかかわらず、こうやって生きているのだという。この爺さんの演技は、もう演技が上手いとかいうのを超えた、本物だった。ただの本物の爺さん、というだけのことかも知れないが。

そんな死にかけの爺さんに、笠智衆が旅の経緯を話す。貯金を全て下ろして贅沢三昧をしてやろうと思ったが、庶民の生活が身体に染みついて、なかなかそうも行かないと。――で? 貯金を使い切った後、どうするつもりなんだ、という爺さんの問いに笠智衆は答えない。爺さんは察する。そりゃいかんよ、そんなのダメだよ、と。

さて、笠智衆の遺書がナレーションで読み上げられ、いよいよ自殺しようとする。断崖絶壁からの飛び降りだ。目を瞑って、エイッと飛び込むが、その瞬間本能が目覚めてしまう。咄嗟に岸壁にしがみついて、一命を取り留めてしまう。

笠智衆の居所を探し当てた岸本加世子たちが、笠智衆の泊まっている宿にやってくる。笠智衆はなかなかの怪我をしているが、見た目には普通で、立って動けている。三人で話をする。若いカップルは言う。こんな金貰えないよ、普通じゃないよおかしいよ。すると笠智衆は言う。私だってこんなことはしたことがない。普通だったら1000円でもやらない。だから気持ちが良かった。何か大きいことが出来た気がした。でも、確かに金を受け取る側の気持ちを考えていなかった。だから、これは無利子で貸すことにする。どうか受け取って欲しい、と。岸本の彼氏が何かを言おうとする。その内容を察して笠智衆が話をそらそうとするが、男は構わず続ける。もしかして、死ぬ気じゃないのか。笠智衆はこれを否定する。

笠智衆を放っておけなくなった二人は、彼氏の実家に笠智衆を連れて行くことにする。家族は出稼ぎで不在。そこには男の祖父が一人寂しく暮らしていた。この祖父に、笠智衆の自殺を止めるよう説得してもらおうと、男は考えたのだ。死ぬなんて馬鹿な考えは止めろ、生きているのが一番だって、そう言ってくれよ。

翌朝、男の祖父は笠智衆と二人きりで話している。若い二人は外で楽しそうにお相撲さんごっこ。老人と若人のカットが交互に映し出される。男の祖父は、孫からあなたを説得するように言われた、と明かす。しかし、生きているのが一番だなんて、私には言えない、という。でも、死ぬのも簡単じゃない。しばらくここにいないか。気心が知れたら俺だって結構喋るぜ。楽しそうな若者二人を映して、終わり。

死に場所を探していた爺さんが、未来のある若者との絶望的な対比を通じて、その悲しみを理解するもう一人の爺さんと出会った、というだけのこの話。しかも自殺というものを一旦飲み込んだ上で話が進む。こんなドラマ、今じゃ絶対に作れない。