京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

嫌われ者に好かれた私の複雑な立場

うちの職場に、ものすごい嫌われ者がいた。わがままで見栄っ張りで自分の非を認めない。社内でも有名な鼻つまみ者なのに、自らを恃むところすこぶる厚い、やっかいな人物だった。なぜか私のことを凄く気に入ってくれて、仕事の面倒もよく見てくれたし、ごはんにも連れて行ってくれたりして。とはいえ、私もこの人は苦手で、正直ごはんは勘弁してほしかったのだが。で、その人の異動が決まった。

この人の幼稚さ、空気の読めなさ、ウザさを上手く言い表せないし、適切な例を挙げることもできないのだけれど、きっとこの調子で、行く先々で人に嫌われ、誰にも相手されないんだと思う。「旅行に連れて行ってやってる」というお母さんが死んだら、いったい誰が唯一の趣味である彼の旅行について行ってやるんだろうか。

なんかそう思うと、可哀想で、このおじさんの意に沿うようにしてやろうと思うのだった。それで、ごはんに連れて行ってやると言われたら嬉しそうにするし、つまんねえ自慢話を延々されても嫌な顔しないし、間違った知識をひけらかされても否定しなかった。そこが気に入られるポイントだったのは確実だろう。

これで最後という日、別れ際にペンをプレゼントした。別部署は住所も相当違うから、もう会うこともないだろう。いまの部署を辞めたがっていたから、そのお祝いだ、と言って渡してやった。どうせ、若い奴によくしてやったから俺は慕われてるんだとか自慢げに語って人に嫌われるんだろうけど、そんな思い出が一つくらいあっても良いよな、と思ったのだ。

ものすごい思い上がりだが、別に良いことをした、なんてこれっぽっちも思わない。むしろ、自分にしては上手に人と別れられたな、と思った。