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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『川獺』

映画・ドラマ

『川獺』 堀井新太 勝村政信 ほか

第39回創作テレビドラマ大賞受賞作。

とある漁師町での物語。主人公の父がカワウソを見つけた、という虚偽の発表をしたことから、家族は離ればなれに。父の危篤の知らせを聞いた主人公は、14年ぶりに故郷を訪れる。父は一体なぜウソをついたのだろうか。

優しくてとても良いお話。だけど、尺の都合で描写不足なところも多いと思う。たとえば、同棲している彼女が妊娠している。お父さんのところに行っておいで、と優しく声を掛けてくれる彼女は、その後も主人公のことを気に掛けている様子。主人公が心配になった彼女は、主人公の故郷まで彼を追ってやってくる。そこで突然「自分は一人になってもこの子を産んで生きていく」みたいなことを言いだし、これに主人公は「何で一人で勝手に決めるんだ」という風に返す。自分が自分の家族を持ち、それを守っていくことへの自信が無い、ということは分かるし、その原因が父との確執にある、ということもニュアンスとしては分かるけれど、これは物語としてはあまり説得力が無いんじゃないのかな。

それから、最大の矛盾がある。父がついた二つのウソだ。一つ目についたウソの理由と、二つ目にウソをついたキッカケが明らかに矛盾している。

主人公の父は子供の頃、友人とともにカワウソを発見するのだが、水産業を営む親から生活を守るために見なかったことにしろ、と言われる。一方、友人は、亡き父の信念を受け継ぎ、カワウソを守るためにその存在を主張しようとする。大人たちの前で、主人公は「大事なもの(=生活)」を守るためにウソをついた。これが理由で、友人との関係が悪化。その後、友人は一連の騒動に父を巻き込まないために、一人でカワウソを探そうとして、事故で死んでしまう。自分がウソをつかなければ、自分が一緒にカワウソを探しに行けば、友人は死ななかったんじゃないか、と父は苦しんだわけだ。

それから数十年後、父はカワウソの存在を発表する。ところが、これは虚偽の発表だったことが明らかになる。岸の一帯を工業地にしようという計画が持ち上がったため、漁が出来なくなってしまうという地元漁師の訴えがそのキッカケだ。

え? と思いませんか。だって、主人公の父が子供の頃にウソをついたのは、カワウソの存在が明るみに出れば、一帯が保護地区になって漁が出来なくなってしまうから、というものだったはずだ。しかし、大人になった父に、カワウソの存在をアピールしてくれ、と頼んだのは、他でもない漁師なのだから。

もちろん、父が虚偽の発表をして岸を守ろうとしたのには、別の理由がある。岸がある限り、あの子は生き続ける、という友人の母の言葉を、父は守ったのだ。ウソをついて失った大事なものを、再びウソをつくことで守ろうとしたわけだ。とはいえ、不器用だよなぁ親父。いつも二者択一を迫られ、へたくそな方を選んでいる。死んだ友人と、自分の家族を天秤に掛けざるを得ない、という状況になって、死んだ友人を取られちゃ、事情は分かるが、家族がキレるのも当然だろう。

「あなたにとって大事なものはなんですか」がテーマの作品で、父の過去を知った主人公が、自分の大事なもの(=彼女とおなかの子供)を守っていく、というところに着地するんだけど、それは親父の選択から直接学べることとは少しずれている気がするんだな。まぁ何にせよ、存在の意味がよく分からなかった同棲相手はここで、こういう風に使われていて、作者の設計の苦労が窺える。

とか偉そうにごちゃごちゃ言ってるけど、泣いたからね。こういう話、凄く好きです。