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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『キンキーブーツ(来日版)』

『キンキーブーツ(来日版)』

2016.11.04 オリックス劇場 13:00 開演

ブロードウェイからまたミュージカルがやってきた。去年の『PIPPIN』に引き続き、今回も見に行くことに。大阪まで来るというので、東京行きを急遽取りやめた。先に感想を言うと、最高だった。

靴メーカーの息子に産まれた主人公チャーリーは、急死した父の後を継ぐことになったが、会社は火の車。ある日、まともなブーツがないことを嘆くドラァグクイーン・ローラと出会い、彼女たちのための靴<キンキーブーツ>を作り、ニッチな産業を攻めることで会社の立て直しを図る。果たして、キンキーブーツは完成するのか、そのブーツは世の中に受け入れられるのか――。

二幕もの。一幕目は、そんなブーツ出来るの? という話。死んだ父が会社を売りに出していたことが判明するも、とにかくブーツが完成したところで一幕が終わる。父の反対を押し切ってフィアンセと田舎を出た主人公は、そこから戻って後を継いだのに、そもそも父が自分に期待なんかしていなかったと落ち込む。父の期待に応えられなかったのは、男らしい男になれなかったローラも同じ、というわけで二人は通じ合う。

二幕目は、作ったブーツを世間に広めよう、という話。そのために、ミラノのファッションショーを目指すが、とにかく金がない。社員たちに無茶をさせて反感を買ったり、ローラと仲違いをしてすべてを失ったように思われるが……という展開。ファッションショーが無残に終わろうかというときにローラたちが現れフィナーレを迎える。他人からこうあるべきと言われた人生ではなく、自分らしく生きることが最も美しいのだ、という強いメッセージを残して。

二幕目は、ちょっと強引。主人公にはもうついて行けない、と出て行った社員たちが、ローラと対立していたある人物の行動を中心として、すぐさま復帰する。主人公とローラの対立も、急に形式的。キンキーブーツを作る、ということ自体がぶっ飛んでいてニッチで、一か八かの大博打だ、という話だったのに、女性向けに売るとか、きちんとしたモデルを使ってショーをするとか、ことごとくローラと対立して、しまいには彼女の尊厳すら傷つける。とはいえ、もともと大筋はクソが付くほど単純。ミュージカルにおいて、脚本はそれほど重要ではない気がする。

オカマであることの生きにくさ、悲しさ、というところをあまり深く掘り下げずに、とにかく元気にオカマとして生きていく、というところが気持ちいい。テレビで見るオカマさんたちが、生きるために敢えてオカマ具合を盛っているのとは違い、これが私らしいということなんだ、という力強さがある。正直、同性愛は認める認めないの話ではなく、実感が持てないので苦手なのだが、オカマが出てきてこんなに盛り上がる、早くおネエさんたちが出てこないかなと思わせる劇を、私は生まれて初めて観たのだった。

明らかにオカマさんだよね、というルックスの人もいたけど、これ本当は女なんじゃないの? というくらい綺麗な人もいて、いずれにしてもスタイルは抜群で、立ち居振る舞いが女性以上に女性的なのが素晴らしかったな。

で、また、劇というものを考えさせられた。「自分らしく生きることが大事だ」なんて面といわれても突っぱねるだろう。これをどう相手に受け取らせるか。その方法のひとつが物語であり、劇だ。映画でこれをやるためには、緻密に計算された脚本、より効果的に相手に伝わるような設計、を必要とする。演劇は、臨場感を利用するから、テーマという点で台本が多少おざなりになる傾向がある。そして、今日分かったのは、ミュージカルは「考える隙を与えない」という手法をとることだ。舞台装置・きらびやかな衣装、そして圧倒的な歌とサウンドで、観客をねじ伏せる。有無を言わせない。

今日私は一体何度涙を流しただろう。しかし、ミュージカルは映画や演劇ほどの読みときの作業を必要としない。自分の内部のどこかを「劇の内容(物語)」が通り抜け、瞬間的かつ無意識に「解釈」が行われ、自分の感情と結びつく、というプロセスを経ない。音楽に乗ったシンプルな言葉の力(残念ながら、それは字幕の日本語なのだが)によって心臓が揺さぶられて、涙を押しとどめられなかったという感じだ。これは快感としか言えない。いまは映画みたいな、こねくり回したストーリーをこれっぽっちも観たいと思わない。本当に私は単純だ。

『PIPPIN』ではカーテンコールが一回のみで二度と出てこなかったから、立つ準備をしていたのだけれど、カーテンコールが一通り済んだあと、もう一度出てきて、全員でフィナーレをもう一度歌ってくれて、そこで観客全員で立って手拍子をしたのだった。そのあとも、二回くらいメインの二人は出てきてくれた。出待ちをしている人たちにもとても親切で、印象が良かった。本当に楽しい劇だった。

帰りにカフェで珈琲を飲んだ。店員さんの笑顔がとても素敵で、ホント都会にいるといちいちときめいてしまって疲れる。しかも、一人可愛い女の人が座っていて、あれは高橋真理恵だったんじゃないか? やっぱり私は男より女性が好きだな、と思うのだった。