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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『キネマと恋人』

『キネマと恋人』 緒川たまき 妻夫木聡 ほか

2016/12/08 梅田芸術劇場シアタードラマシティ 14:00開演。

「嘘つき」でお馴染み、緒川たまき祇園祭の時にすれ違ったことがあります!)の旦那としてしか知らなかったケラリーノ・サンドロヴィッチ作演出の芝居を見に行ってきた。イケメンでもないし、ふざけた名前だし、何だよコイツ、なんで緒川たまきもこんなのと結婚したんだよ、とか思ってました。それをここで撤回したい。この人には才能があるのだ。いままで見た演劇の中で、今日見た芝居が一番好きだ。シアタードラマシティといえば、私が自分で金を払って(いや厳密には払ってもらって)初めて観劇した劇場で、とても思い入れの深い場所。またこの劇場で、あの時とは違った意味の感動を味わえるとは思いもしなかった。(森ノ宮ピロティホールでみた芝居がどれも××だったのとはエラい違いだな)。

なんでこれを見に行こうと思ったかと言えば、前作『グッドバイ』のDVDトレーラーを見たから。太宰の未完の遺作を劇にしたっていうんで、そもそもスルーしていた。これまで太宰の小説を元ネタにした映画をいくつも見たけれど、どれも××が付くほどつまらなかったからだ。それがトレーラー映像を見ると、何だかちょっと面白そうではないか。なるほど、ダテに名前をよく聞く劇作家ではないな、と思って、ずっと気になっていたのだった。そこに本作である。この十年で最も力を入れた作品、と本人が語っていたのを聞いて、ますます期待していた。えーと、前置きが長くなった。

本作はウディ・アレンの映画『カイロの紫のバラ』(未見)の翻案とのこと。昭和初期の日本が舞台で、映画だけが人生の楽しみという片田舎に住む女が、スクリーンから出てきた映画の主人公と恋に落ちてしまう、という切ないコメディだ。どうして切ないかと言えば、恋が成就しないから。そして彼女はやはり映画によって現実の辛さを忘れようとする――というところで幕が下りる。話の運びと着地点は比較的ありがち。この劇を見たとき真っ先に思い出したのは『もっと泣いてよフラッパー』と『上海バンスキング』だ。詳しくはないが、雰囲気はかなり似ていると思う。見せ方が巧いところもね。ただし、こっちはかなり洗練されている。

映画を扱った内容だけあって、とりわけ、映像の使い方が巧い。まず冒頭、いきなりスクリーンに映画が映し出され、わらわらと人が集まって(このみんなの歩き方が劇の始まりを予感させてまた良いんだ)、そこが映画館になる。上映が終わった瞬間、スクリーンがピューッと細くなって魔法の絨毯のようにどこかに飛んでいく。もうこれで私の心が掴まれてしまう。その後、アバンタイトルとしてひとくだりのやりとりのあと、オープニングが始まる。人間がスクリーンを持って舞台上を行ったり来たりするところにプロジェクトマッピングでバシバシ映像を流していく、というもので、身体が震えた。これだけでチケット代の元を取ったと私は思った。

演出の巧さは映像に限らないのだが、言い出すとキリがないのでやめよう。ただ、演出自体が映像的だな、とは思った。例えば、あまりのショックで空間が歪んで見えてしまうとか、雑踏の中の孤独とか、映像だとこう表現するよね、というところを舞台表現に移し替えたような印象を受けた。これも映画をモチーフにしているから?

ちなみに、この劇は、シアタートラムという小さな劇場でやる、というところから企画が始まっていたらしい。これは小劇場で観ればますます圧倒的だったに違いない。東京人たちが羨ましい。まぁインフルエンザで休演にもなってましたけど。

で、トータルとしては何の話? 何が言いたかったの? と思うのだが、辛い現実を映画が忘れさせてくれるということに共感できればそれでいいのだ。何の話? テーマは何? とすぐに求めてしまうのはエンタメ映画好きの悪いクセだな。美術の時間、絵の上手い奴の作品を見て「スゲー」としか言えなかった、でも本当に上手くて凄いと思った、あの時の感じだ。この絵のテーマは何? 君はこれを書いて何を表現したかったの? とか聞かないもんね。演劇って言うのは、だから芸術なんだな。訳の分からないことを今更言っているが。

一つだけ言いたいことがあるのは、長いと言うことか。この内容ならもう少しコンパクトに語れる気がする。思いついたものを全部突っ込んじゃってる感じがして、ちょっと疲れた。場面転換に音楽とダンスを入れて工夫してあるけど、あれも何度も繰り返すと目に付くというかね。面白かったから結果的に3時間耐えられたという感じか。それだけの自信が作家にあったということなのかも知れない。

役者もよかった。緒川たまきがこんなに上手いとは思わなかった。退屈な日常生活を送る彼女が映画のことになるとテンションが上がってグイグイ行っちゃうというあの感じ。別人のように演じるのではなくて、一人の人間の中にあるハイとローを継目なしに演じていた。妻夫木聡はたまにトチってたが、ホント良い役者になったよなぁと上から目線。私は好きだ。ともさかりえは『いけちゃんとボク』以来ひっさしぶりに見たが、良い味を出していて、劇に彩りを添えていた。あぁこんな演技も出来るんだと思った。上から目線。

以上の結論として、来年3月の『陥没』も見に行くことが決定したんだが、金が、仕事が……。それまで映画を見て現実逃避するとしようか。