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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『洞窟おじさん』

映画・ドラマ

『洞窟おじさん』 リリー・フランキー ほか

13歳の頃に家出をして、山の洞窟で数十年を生きたという男の半生を綴った「ほぼ」実話。とても良いドラマだった。全四話。

物語は、おじさんになった主人公・加山一馬が自販機泥棒で警察に捕まるところから始まり、その取り調べに対する一馬の供述という形で進んでいく。明示はされないが、一馬は両親の子供ではないのだろう。親からの虐待・ネグレクトを受け、兄姉からは見放され、友人からは仲間はずれにされ、耐えきれなくなった一馬は家出を決意する。追いかけてきた愛犬シロと山の洞窟で生活を始めるが、辛苦を共にしたシロは程なく死んでしまう。

この後、成人した一馬は、心優しい人に救われたり、友人だと思った人間に裏切られたり、先生と呼ぶ男に字を教えてもらったり、女性に恋をしたりするが、結局、誰とも一緒になることが出来ない。そして、行き場を失った一馬は警察に捕まる。

そしてラスト。警察の世話で、行き場を失った人たちを引き受ける施設で暮らすことになった一馬は、そこで心から自分の身を案じてくれる一人の女性施設員と出会い、「生きているのって楽しい」という境地にいたるのだ。泣かすなぁ。リリー・フランキー尾野真千子がこんなに良い役者だとは思いもしなかった。

13歳まで学校に行っていた(んですよね?)なら、そこまでおつむが弱いのは少々極端なんじゃないのかとか思うけれども、社会のことを何にも知らずに、良い意味でも悪い意味でも子供のまま大人になってしまった人間のおかしさと悲しさがいっぱい詰まっている。ホームレスの50男が、結婚して子供を作りたいんだ、と混じり気のない笑顔で話す、その姿の絶望的な愛おしさは一体何だろう。

これは、このドラマの全編にわたってそうだ。どう見たって悲劇なのに悲壮感がなく、何かを馬鹿にすることなくコメディであり、どこかシリアスなトーンなのにどこまでもハートウォーミングだ。凄いドラマだった。凄く良いドラマだった。ドラマや映画の制作者は、もう今後、軽々しく実話のドラマ化なんかできないと思った方が良い。