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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『陥没』

『陥没』 井上芳雄 小池栄子 ほか

2017年3月5日 森ノ宮ピロティホール 13:00開演

前作『キネマと恋人』でビックリするほどガッチリと心を掴まれてしまい、もう一度ケラリーノ・サンドロヴィッチ作演出の劇を見たい、というわけでチケットを購入し、見に行ってきた。こんな奇跡があるとは思いもしなかったのだが、座席が最前列だった。こんな場所で劇を見たことがないから、本当に不思議な感じがした。これが本当の劇なんだろう。こんなにも役者の表情が見えるなんて。ただこの座席のせいで見えなくなってしまった部分も多く、特にプロジェクションマッピングについては、多分もう少し後ろの座席の方が、より効果的に演出を楽しめたと思う。

時代は、昭和の東京オリンピックの数年前。山崎一が社長を務める湯たんぽ会社が、新たにホテル事業に参入しようとしている。社長令嬢の小池栄子と結婚した井上芳雄の尽力もあり、ホテル建設計画は着々と進んでいる。しかし、その直後、交通事故で社長は帰らぬ人となってしまう。

それから二年後。完成したホテルで働いている小池栄子。この日ホテルでは結婚披露のパーティが開かれるという。新郎と新婦は、井上芳雄松岡茉優。実は、井上芳雄の浮気のために、小池と井上は離婚していたのだ。井上が松岡と出会ったのは離婚の後である。

小池が井上の元妻であることをこの日初めて知った松岡は動揺を隠せない。そして彼女は二人が互いを未だ思い合っていることを鋭く見抜いてしまうのだった。小池と井上は、自分たちの関係が既に精算されたことの証明として、このホテルでのパーティーを企画したのだが、それが軽率であったと反省する。

その小池はいま、父の部下で以前は毛嫌いしていた生瀬勝久と再婚している。ホテル経営は火の車で、トラブルも続いているが、生瀬は相談に乗ろうともしない。それもそのはず、トラブルを起こさせているのが生瀬本人だからである。山崎一の死後、自身の借金を全て山崎ものとして、小池に恩を売り、生瀬は小池をものにしていた。

――という一連の話の流れが、二人の仲を取り持ちたい山崎一の亡霊の奔走と、山崎を天国に連れ帰りたい幽霊たちとの騒動によって詳らかとなり、ドタバタの末に松岡が去って、小池と井上が元の鞘に収まる(であろう)という物語。

これが一応本筋で、ここに周囲の人間の個別エピソードと、本筋に影響を与えるエピソードが複雑に配置されていく。休憩挟んで三時間超え。相変わらずの長さだ。

作者曰く「明示されないドラマにこそ豊かさがある」。なるほど、と思った。私が馬鹿だからか、物語の結論としては明示されたものがあるように私は感じた。二人がどれだけ本音で悪口を言い合っても、いやそれを言い合うほどに、二人が好き合っていることがハッキリとしてしまう。山崎一がそう指摘したように、松岡茉優がそう見抜いたように。といっても、男が単純に元の女と一緒になれたという感慨に浸る一方で、女の方はもう少し複雑な感慨を得ているのであって、ココが男にとっては「明示されない」のかも知れない(なんだかんだ、男に都合のいい話なんだよね実は)。全体的にも物語の構造がぼかされているとでも言えば良いのか、群像劇と言うこともあって、話の推進力がとても穏やかだから、分かりやすくはないというのは確かだと思う。

後ろの座席に座っていた女二人は既にこの劇を見たことがあるらしく、劇の始まる前からペチャクチャとネタバレしやがって、「映画は見ないけど劇はたくさん見てるんだよね」のアピールもウゼえ! とか思っていたら、「お父さんは何で死んだの? 病気?」とか言ってて、お前らな、お父さんが死ぬ前に小池栄子が「気をつけて運転してね」って運転手さんに言ってたんだから、交通事故死に決まってんだろ馬鹿、と思った。この劇の「明示されない」っていうのはそういう意味じゃない。

コメディなんで、たくさん笑わせてもらったんだけど、何で笑ったか一つも思い出せない。それくらい笑いどころはたくさんあった一方で、突き抜ける笑いもなかったと言うことなのかも知れない。そんなこともないと思うんだけど。

特に、さすが作演出が夫なだけあって、緒川たまきの使い方が上手い。一番上手に綺麗に笑いを生んでいたのはやっぱりこの人だと私は思う。言っちゃ悪いけど、『キネマと恋人』と一緒なんだよ。ただやっぱり上手。私は凄く好きだ。近くで見たらめっちゃくちゃ可愛かったし。出来たら次はもっと違う色を見せて欲しいな。

小池栄子は、こんなに細くて顔の小さい人だとは思わなかった。おっぱい大きくて、もっとこう肉感的な人なのかと思ったら、誰よりもスリムだった。映画の演技は苦手だったけれど、舞台にはピッタリで好きになった。

松岡茉優は、一番期待していたのだけれど、残念ながら自分の力を生かし切れていないなと感じた。舞台経験が浅いからなのか、映画映えするタイプだからなのか、分からないけれど、なんか気の毒だなぁと思った。役柄というのもあるんだろうけど、舞台に現れると空気が急に澄むのよ。おっ、と思うでしょ、それが喋り出すと元に戻ってしまうような。透き通るように白くて可愛かった。でも家で映像を見てみると、生と映像がほとんど変わらないなと思った。

趣里は、これも言っちゃ悪いけど、顔芸要因みたいなところがあって、演出家の意図を残酷に感じ取った。が、彼女自身がそれに喜んで答えているようなところがあるように思えて、私は好きだった。あと、さっき小池栄子を誰よりもスリムだと言ったけれど、嘘。彼女が一番細かった。大丈夫か? というくらい細かった。

男には興味ないから、特に言いたいことはないけれど、みんな上手だったね。山崎一は予想外の演技で結構好きだった。井上芳雄はスタイル良くて格好良かった。演技もまぁまぁ好きだった。瀬戸康史も面白くて間の取り方が上手くて好きだったけど、あの役は素直に笑えない人もいると思う。山西惇は出番多かったけど私は苦手かなぁ……。他の人はいつも通り。

ちなみに、素朴な感想として、これは1960年代である必要があったんだろうか、という疑問が残っている。

さて、また取り留めもなく長々と書いてきたが、これまで見た演劇の中では、好きな部類に入る作品。でも『キネマと恋人』が圧倒的すぎて。もう一回くらいはケラ作品、観ておきたいな。