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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『今朝の秋』

『今朝の秋』 笠智衆 杉浦直樹 ほか

蓼科で隠居生活送る笠智衆の元に、息子である杉浦直樹の嫁が、夫の余命幾ばくもないことを知らせに来る。その頃、知らせを聞いた杉村春子が息子を見舞って病院を訪れていた。20数年前、男を作って出て行った杉村春子が、杉浦直樹に会うのは4年ぶりのことだった。東京で見舞いを済ませた笠智衆杉村春子と再会するが、二人の溝は埋まらず、夫は妻に息子と会うことを禁ずる。妻は、あなたが息子に何をしてやれるんだ、と反論するが――。

母の裏切りによって両親が離婚してしまっている息子。自身の妻も他に男を作っていることが分かっている。子供は自分の人生に夢中だ。そんなバラバラになった家族が、余命三ヶ月の事実の元に、仮初の家族団らんを設けようとする話。

一般市民が時に大胆なことをやる、というのが山田太一の基本線なのだろう。大胆と言っても、それこそ一般市民のスケールにおいて大胆なのであって、本作で言えば、病院に無断で外泊する、くらいのものだ。そんなことでも、規則にがんじがらめの市民にとっちゃ大冒険なのである。

蓼科に家族が集まる。自分の過去の不貞を棚に上げ、始終口やかましいウザいキャラである杉村春子先生は、笠智衆が勝手に連れ出した杉浦直樹を力尽くでも連れ戻すと躍起になっていたが、母さんも一緒にここにいようという息子の言葉を、自然と受け止める。

杉浦直樹は全て分かっている。もう自分が長くないことも、これが本当の団らんでないことも。でも、治ると言われた嘘を信じたいし、一時の家族団らんも信じたい。みんなで嘘を作る。そのどこかに、きっと本当が潜んでいる。