京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『グッドバイ』

『グッドバイ』 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

雑誌の編集長を務める主人公の男が、愛人たちとの関係を清算していくという話。普通の生活をしようと思い立った主人公が、どうやって女たちと関係を切れば良いのか思案していたところ、ある人からアドバイスをもらう。女たちの元に、これが妻ですと絶世の美女を連れて行けば、みんな諦めるんじゃないかと。で、そんな都合の良い美女がどこに? それが思わぬところで見つかって――と話が続いていく。

元々は太宰治の未完の作品。続きをケラが書いたと言うことなんだが、これを読んだ後に太宰の方を読んでみた。太宰は天才だよね。精神的に病み、薬におぼれ、色恋に身を任せ、死にとりつかれてコメディアンになった男とでもいうのか。深刻そうな顔をすればするほど、人生に苦悩すればするほど、見ている方は笑えてくるという、希有の天性を持って生まれてきた、日本を代表する文学者だ。

ケラはアイデアだけ頂戴したのかと思っていたが、ほぼ原作通りで驚いた。太宰も戯曲を書けば良かったのに。小説と演劇がほんの一またぎであることを痛感した。そして未完の続き、残りの8割を書いたケラもさすが。相変わらず長いし、緒川たまきの使い方が同じだし、終盤多少だれる感じもしたけど、これをプロットなしのぶっつけで書き上げる腕力が、これまた天才的。太宰の書いた部分と未完の部分に縫い目が無いというか、これ全部太宰が書いたと言われても、あぁそう言われると……という説得力がある。

ただ、この戯曲を読んで思ったのは、ケラという人の作る作品が、丼もの的だということか。前菜やスープから始まってメインディッシュ、デザートでしめる、という感じが無い。ご飯を中心におかずを食べてたまに箸休め、という感じもしない。ずっと同じ味が続くのを、ご飯の量と上に乗った具の量で強弱を付けながら食べていき、そのまま食事が終わる、という感じがする。分かりますかこの感覚。カレーライス的ともスパゲッティ的とも言える。だから、全体として美味い不味いの感想しか言えなくて、いまのところ美味いものだけを食わせてもらっているけれど、物語としてあそこのあの部分が最高だった、って言いにくい。それこそ『キネマと恋人』のプロジェクションマッピングが最高だったね、みたいな演出部分の感想になってしまう。

グッドバイ

グッドバイ