読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

正直引きました

職場に新人の女の子がやってきた。愛嬌の良いブスが望ましいとか言ってたけど、お世辞にも美人とは言えないものの、かわいらしくしっかりとしたとても感じの良い子だった。初日だし、感じが良いのは当然と言えば当然だけど、真面目だしハキハキ喋るし背筋はピンとしているし、凄く緊張していて凄く気を遣っていて、その世間擦れしていない初々しい感じが好印象だった。怖いのは、これが演技であるという可能性があることで、芦田愛菜ならずとも女子っちゅうのはこれくらいの芝居は軽く打つのである。まぁ嘘だと分かっていても感動するのが芝居の良いところで、こういうのは騙されておくのが良い、ということにしておこう。

なんにしても、フレッシュ(死語)だ。一生懸命な若者というのが、見ていてこんなに気持ちいいものだとは思わなかった。ルーティンワークで淀みきった職場に一瞬新鮮な風が吹く。みんなが彼女を迎え入れようと積極的に動き、彼女に仕事を教えながら自分の仕事を見つめ直したり、自分が新人だった頃を思い出したりする。こんな風にして、新人がやってくるたび、ほんの少しだけ活性化されて、組織というのは存続していくのだろう。

私は、ろくに仕事も出来ずに少し浮いているバイト君で、そもそもこの部署に来るのは月に数回だけの厄介者、という特殊な立場にいるために、彼女と言葉を交わすことはほとんど無かった。自分がこの仕事を始めてすぐの頃、書類の細かい話や場当たり的な機械操作の方法を教えられるばかりで、大きな仕事の流れを大まかにでも説明してくれる人がいなかったことを不満に思っていた。それで、あのころ私が教えて欲しかったように、彼女に教えてあげたいなと思ったのだけれど、年下の正社員が指導役を買って出ていたし、あんまり口出ししないようにしようとか思ってたら、そのまま話す機会を全く失ってしまったのだ。

……というのは8割くらい嘘で、本当は緊張して女の子と話せなかったのである。ヤムチャかよ。何も出来ずに座っているだけの彼女に「これ手伝ってください」と声を掛けたまでは良かったが、8つも年下の子にその後もずっとカチコチの敬語だし、手が震えているのである。正直引きました、自分自身に。