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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

人生はまるでお好み焼き

このところ派遣されている部署で、歓送迎会が執り行われた。久々に酒を飲んだが、いつものように身体が火照って辛いということもなかった。強くなったのかな。といってもコップ二杯しか飲んでいないのだが。

細い、通路とも言えない通路を挟んで4人4人に分かれて座った。後から遅れてやってくるというボスをどこに座らせるか、で激論が交わされる。私はこのメンバーで飲むのは初めてなのだが、どうもあのオッサンは始終仕事の話をするようで、一番被害が少ない陣形を組み立てようということらしい。その結果、特に新人へのダメージが軽減されるように布陣された。

私はハナからオッサンの話など聞くつもりは無かったので別に構わないですよということで、ボスの目の前に座ることになった。私の隣には同じバイトのオバチャンが座った。この人、私のことを気に入ってくれているようで、つまらない話をしても笑って聞いてくれるから、私としてもとても気楽に過ごせるのだった。

仕事中、みんなからまったく相手にされていないのをヒシヒシと感じていたので、飲み会になんて全然参加したくなかったのだけれど、ボスの仕事の話をいかにして封じるかを考え、次席であるリーダーに積極的に話を振るという柄にもない役割を演じたことで、私自身も飲み会の一員になれたような気がした。

なにより、ますます隣のオバチャンが私を気に入ってくれたようで、こんな私を見て、モテそうだとか、うちの娘どう? とか、冗談でも言ってくれるのが嬉しかった。

口べたで何の人生経験も無いただのネクラな耳年増であるにも関わらず、それはきっとバレているんだろうけれど、っていうかいつもの癖で先に宣言してしまっているんだけど、そういうことをあまり本当に感じさせないように振る舞えている気がしていた。私自身を否定する、私を冷静に監視するもうひとりの私がいなくなって、シンプルな私として人と向き合えたような気がしていた。飲み慣れていないから分からないが、これが酒を飲んで気が大きくなっているということなのかな。いや、素面でもそういう瞬間は時々あるから、多分そんなことも無いと思うんだけど。

しかし、周りからはただの酔っ払いだと思われていたかも。例えば、向こうの席の料理を一口だけ貰えませんかと頼んだところ、新人さんが皿に装ってくれることになったんだけれど、取り箸がない。そこで新人さんが自分の匙を使っても良いですか、といってくる。私は取り箸が無いという事情を知らず、新人さんの声も良く聞き取れなかったから、何でも良いですよと答えたところ、ボスが合いの手を入れてくる。むしろご馳走だよな、と。まぁ飲み会にありがちなオヤジの下品なギャグなのだが、私もそれに乗っかって、ご馳走です、ありがとうございます、いただきます、と答えるんだから。

こんなことを詳細に書き出していることからも、私がいかに普段とは違う自分を演じていたか、私がいかに飲み会などというものと縁が無いのか、がよく分かっていただけると思う。

それにしても、新人さんである。思えば、ちゃんとした後輩なんて初めてなのだ。中学生の頃は、私たち自身に先輩がおらず、したがってその後出来た後輩との関係もなぁなぁであった。高校の頃は帰宅部だったし、校外のサークルで一つ年下の女の子が社交辞令的に私を先輩と呼んでくれていたが、内心私を馬鹿にしていたのが見え透いていた。大学時代は人との付き合い自体無かった。だからもう可愛くて仕方が無いわけ。分からないことがあったら聞きに来るし、困ったことがあったら助けてくださいって困った顔をしてやってくるし、いちいち目線をこっちに向けてくれる感じが、あれ、これ好きになっちゃうんじゃね? っていうくらい可愛い。モテない男は辛い。

飲み会が終わり、大事なことに気付いた。私だけボスと帰り道が一緒なのである。あれだけボスの話を聞くまいと思っていた私が、結局一対一でいちばん長く話を聞く羽目になってしまった。仕事の話はもちろん、普通の話をさせても、話のつまらん奴だなと思った。それに普段職場でもそうなんだけど、本人のいないところでなかなかキツい悪口を言うんで、嫌な奴だなとも思った。悪口を言う奴は本当に信用できない。私のいないところで私の悪口を言っているに違いないからだ。まぁ、このボス自身がメンバー全員に好かれていない、っていうことに気付いていないんだから仕方ないか。

だけど、私の陰口を言っているか否かはともかく、私の今後についても結構考えてくれているようで、飲み会の楽しかったことと後輩の可愛いこともあって、そして明日が休みであることも相俟って、すごく前向きな気分で一週間の仕事を終えることになった。シナリオなんか書くの止めて、この仕事続けようかなとか思っちゃうんだから本当に気分って怖い。この気持ちは次の月曜日には一瞬で萎れると思うが。