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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『価値観の違い』

○オープンテラス
   海の近く。大きな観覧車が見える。
   フードコートの外で、イスや机が用意されている。
   まばらな客に紛れて、男女が対面して座っている。
   木村(22)となるみ(21)である。
木村「どう思う、これ」
   とあんパンを差し出す。
なるみ「パンじゃない? ゴマだから、あんパン?」
木村「そうじゃなくて」
なるみ「どういうこと?」
木村「食べてみ」
なるみ「なんで」
木村「いいから」
   なるみ、一口かじって
なるみ「ほら、やっぱりあんパン」
   と、パンを見せて
木村「なんか思わない?」
なるみ「……普通じゃない?」
   木村、軽くため息をついて
木村「反対側も食べてみて」
なるみ「……うん」
   と、戸惑いつつ食べてみる。
木村「どう」
なるみ「……あんパンだけど」
木村「別れよう」
なるみ「なんなの、さっきから」
木村「あんパンだよ」
なるみ「分かってるよ」
木村「全然分かってない」
なるみ「はぁ?」
木村「あんパンかじってあんパンだって分かるってことは
 あんが端まで詰まってるってことで、でもそれって
 あんが端に偏ってるだけなんじゃないのかと思って
 反対側も食べてみたらやっぱり詰まってて
 このあんパンすげー!! ってならない? なれない?」
   間。
   なるみ、おもむろにバッグから肉まんを取り出す。
   机の上にドンと置くので、木村ビックリして
木村「……」
なるみ「ほな、言わせてもらうけどな」
木村「……なに」
なるみ「なんか思わへん?」
木村「肉まんじゃないの」
なるみ「……」
木村「あんまん……ではないよな、ヒダがあるし」
なるみ「豚まんや!!」
木村「東京では肉まんって」
なるみ「横浜やろ、ここは。あー嫌や嫌や、すぐに東京東京言うねん」
木村「横浜でも肉まんですから!」
   なるみ、肉まんの入っていた箱も机の上に出す。
   「豚饅 551 HORAI」と書かれた赤い箱である。
なるみ「東京だろうと横浜だろうと、この豚まんは豚まんや」
木村「……どこで買ったんだよ」
なるみ「大阪出るとき連れてって、って言うたんや」
木村「誰が」
なるみ「豚まんが」
木村「言うわけないだろ」
なるみ「ちゃうちゃう」
木村「なに」
なるみ「ツッコミが間違ってんねん」
木村「はい?」
なるみ「『大阪出るとき連れてって』言うんは
 『たこ昌のたこやき』や」
木村「ごめん、何を言ってるのかサッパリ」
   間。
なるみ「私が怒ってるんは、そことちゃう」
木村「やっぱり怒ってるの?」
なるみ「これ、何も思わへんの?」
   と、肉まんを指して。
木村「……ぶ、豚まんでしょ?」
なるみ「別れよか、うちら」
木村「なんで」
なるみ「あんた、551があるのに、ない時みたいなテンションやん」
木村「??」
なるみ「そもそもあんパンやなくて、私と一緒にいることに
 テンション上げろっちゅう話や」
木村「ごめん」
   なるみ、両端をかじったあんパンを手に取り、
   まだかじっていない部分にかじりつく
なるみ「……偏っとるやないか!」
                              (おわり)

参考資料