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京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

生まれて初めて

仕事帰りのこと。オッサンが自転車に乗ったまま、ペダルをこがずにトボトボとこちらに向かってくる。オッサンはすれ違う人に大きな声で「すんません」と声を掛けているようだ。私はぼんやり歩いていたから途中まで気付いていなかったのだが、オッサンは多分誰にも相手にされず、何人にも「すんません」と声を掛けていたのだろう。確かに、そういえばさっきからオッサンの声が聞こえているような気がする。そして、いよいよオッサンと私がすれ違う番が来た。「すんません」。

私はどうしたか。無視をしたのである。目もくれず、歩く速度も変えず、まるでそこに誰もいないかのように振る舞ったのだ。こんな露骨に人間を無視したのは、生まれて初めてではないか。自分でそうやっておきながら、もの凄く心が痛んだ。こんなことだったら、ちょっと面倒でも立ち止まって話を聞いてやれば良かった、と思った。この気持ちに支配されている時間の方が、オッサンの話に付き合うよりもむしろ私の時間を奪っているような気がした。

これは言い訳になるけれども、このあたりは治安が悪くて、変な奴が多い。オッサンも変だったし、だからこそ私の前を歩いていた人たちも無視をしていたのだ。もっと言えば、オッサンを無視していた先行者たちも、ぶっちゃけ変な奴らなのである。おいおいお前は違うのか、と突っ込みが入りそうで、いつもなら「私も変な奴のひとりなのだが」と自虐的に書くところだが、ここは私のような変な奴が「変だ」というくらい変な奴らが跋扈していると理解していただくよりはないと思う。

しかし、普段なら、みんなが無視するなか私は犠牲になるタイプなのである。GW開始の解放感に水を差されるのが嫌で、いつもとは違う方向の勇気を出してしまったのだ。結局、あのオッサンは何に困っていたんだろう。なんだか意図しない形で、なりたくない大人に少し近づいてしまったようで、凹むわーとか言ってるそばからソッコー元気ー!

明日からGWである。