京都鴨川藝術大学

Kyoto Kamo River Imaginary University of the Arts

『ちょっと今から仕事やめてくる』

『ちょっと今から仕事やめてくる』 工藤阿須加 福士蒼汰 ほか

ブラック企業に勤める青年・青山が心身ともに追い詰められたすえ、駅のホームに飛び込もうとしたその時、幼なじみのヤマモトと名乗る男に命を救われる。青山はヤマモトのことを覚えていなかったが、その日から二人の友だちづきあいが始まり、青山は少しずつ明るさを取り戻していく。しかし、ヤマモトは数年前に死んでいることが発覚して――。

押しつけがましいストーリー、へたくそな脚本構成、嫌いな役者総出演、鼻につく主題歌、どこをとっても私の苦手な作品であった。主人公の工藤阿須加ブラック企業に苦しめられて退職を決意するまで、というのが物語の骨子。その主人公をサポートする福士蒼汰という謎の存在によって観客の興味を引きつけておく、という趣向らしい。

まず、工藤阿須加だけど、ブラック企業に勤めて心身ともに疲れている、という感じが全くしない。ルックスも芝居も健康的すぎるのだ。ここがこの作品で一番気になった。だからなんだか全体としてあまり深刻さを感じないのである。彼を筆頭に、役者の演技によって物語世界に素直に入っていけない。黒木華の急にスイッチの入ったような演技と、吉田鋼太郎がずっとシェイクスピア劇のトーンで罵詈雑言を浴びせるのは喧しくて仕方なかった。福士蒼汰の演技は好き嫌いだろう。関西弁はかなり頑張っていたと思うが、だったらこれ菅田将暉でもいいんじゃね? という気はする。

主人公が会社を辞めた後のシークエンスは確実に蛇足。実はヤマモトは双子で云々、という種明かしが延々と続くところはウンザリした。主人公が見ていたヤマモトは全部幻覚なのでした、というオチの方がまだマシだ。いちいち押しつけがましいメッセージが込められているのと、海外に行ってとりあえず解決ってのは『草原の椅子』と同じ。

そりゃなにもかもをほっぽり出してしまえるなら、それで生きていくことは可能だろう。生か死かの二択を迫られたときに、生きる方を選ぶのは全く間違っていない。とはいえ、ここまで大胆に生き方を変えなければ生きられないのなら、結局ほとんどの奴は「ちょっと今から仕事やめてくる」という訳にはいかないんじゃないのか。それに、私のところはここまでブラックじゃないし、といって退職の決意を鈍らせる人が出てくるんじゃないかと思う。それって、この作品の意図する方向性とは反対なのでは?

成島出はもう『八日目の蝉』のような傑作は撮れないのか。